表の闇 裏の闇


青い空に白い雲、

空を見上げれば、飛行雲が一直線に白い線が引かれていた。

「おはようございます!」

同じジャージを着た少年達に手を挙げ、
笑顔で挨拶をすれば、様々な返事が返ってきた。

雑談をしながら、目的の場所へと歩いて行く。

「楽しみですね、合宿」

嬉々として話すの姿に、

「本当だね」

どんな事をするんだろうね?

頷きながら、コレからの合宿に思いをはせていた。

ゆっくりと歩き、目的の場所へと向かって行く。

「おはよう」

学校カラーのユニホーム姿の渋沢を始めとする、
藤代、間宮の出迎えに、挨拶をし、グランドへと足を進めていく。

グランド脇を歩き、監督である西園寺とコーチ陣に挨拶をし終え、
改めて武蔵森の監督である桐原に挨拶を済ませ、
着替え終われば、合同練習を始めた。

軽くランニングをした後、2人1組でリフティングや軽いメニューをこなし、
2面のコートを使いコーチ陣の言葉に従い練習が始まった。

聞こえてくる指示を出す声に、視線を動かせば、
必死にボールを追い掛ける兄の姿を横目に見ながら、
微笑みそうになる顔を引き締め、
次の練習に仕様するカラーコーンの準備などをしてゆく。

コート内の練習の進み具合を感じ取り、
ボールの補充に集中していく中、
外へと出されたボールをフェンスの外へと持って行くと
腰を下ろしボールを磨き始めた。

どうしたんだろう?

不思議に思い回りを見渡してみれば、数人が座り使ったボールを磨いたり、
ビブスの片付けなどをして、試合に関わっていなかった。

マネージャーさん達かなぁ?

必死に雑務をこなしてゆく人達を見ながら
自分に与えられた仕事をこなしていく。

何種類かのトレーニングを終え、集合の声と笛の音で集まれば、
休憩後のスケジュールが告げられ、昼食休憩のため解散となった。

個々のグループを作りながら食堂へと移動して行くが、
数人がグラウンドに残り後片付けとグラウンドの馴らしをし始めるのが目に留まり、
動かしかけた足を止めれば、隣を歩いていた将も足を止めグラウンドへと
身体を向け、1歩足を出す。
が、

「将、お前は何処に行く気だよ?」

後ろを歩いていた椎名に止められ、引っ張られる様に食堂へと連れて行かれ、
何か言いたげな表情のまま席に付き食事が始めた。

そんな中、トレーを机に置き、背もたれに手をかけるが、
いっこうに腰掛ける気配を見せず、視線を下げたままでいるに、

ちゃん?」

隣で座っている将の声にも動かず、
2人の雰囲気を感じ取った、チームメイト達の視線が集まる中、

「あの・・ね・・・・」

下を向いたままのの声に、
将が首を傾げながら、次に来るの言葉に耳を傾ける。

促す言葉をかけず、ゆっくりと待つ。

「わたし・・・・」

重い声が言葉を紡ぎだす。

「あの・・ね・・・」

必死に何かを言おうとしているに耳を傾けていると、
廊下からバタバタと足音を鳴らし、
食堂へと響き静かだった空間に音が入れば、
どこか堅くなっていた空気が和らぎ、

「なんでも・・ないです・・・」

全身に入れていた力を抜き零れ落ちた声と共に体の力が抜け、
イスに座り、力無く箸を動かし始めた。

時折、心配そうに視線を向けられ、力無く笑い返しながら食事を進めるが、

言わなきゃダメなんだけど・・・
・・・・まだ早いよね・・

ゆっくりと、みそ汁を飲みながら言葉のタイミングを考え、
身体の中に溜息を落とした。

練習中の引き締まった空気とは違い、
ゆっくりとした空気が流れる中、選手達より早めに食堂を出、
昼からの練習の準備に向かう。

お昼からは・・・

朝告げられたスケジュ−ルを思い出し、
必要な道具を思い浮かべながら、外へと足を踏み出せば、
太陽に温められた熱気を気管一杯に吸い込み、
2・3度咳き込み、刺す様な光が照らすグランドへと出た。

誰よりも早く出たという思いが、
目に入った光景に消えてなくなった・・・・

「将?」

笑いながら、ボールの準備をする将の姿に
何時席を外したのか気付かなかった自分に何かが落ちた
感じがし、走って将の元へと駆け寄った。

「ゴメンナサイ!
 私が遅かったから・・・」

開始10分前に食堂を出た自分より、先に出ていた将に
自分の仕事をさせてしまった・・

落ちたモノが気持ちと考えに変わり、慌て誤り手を出しかけるが

「いつもやってきた事だから、大丈夫だよ」

微笑み、攻める事をしない将と周りの人々に
言葉を作りかけるが、それより早く

「風祭、この子がお前の妹かよ?」

言葉と共に、将の元へとやってきた人物に
視線を向け、楽しげに話す将を見ていれば、

ちゃん。
 彼は森川智之君で、僕が武蔵森に居た時に
 友達になったんだ」

嬉しそうに笑いながら紹介された人物の名を聞き、
記憶の中からモリカワ・トモユキを探してゆく。

武蔵森に居た時・・・
1年前だから手紙に書かれているハズ・・・

探り当てた記憶は、
武蔵森で3軍に所属していた時に知り合った人物。

奥歯をキツク噛み締めたくなる思いを隠し、

「初めまして、風祭です」

軽く頭を下げ、自己紹介を終えれば

「トモユキは僕と同じ3軍だったんだけど、
 頑張って、2軍に上がったんだよ」

凄いよね。

まるで自分の事のように喜ぶ姿に、
聞こえた言葉が聞き間違えれば無いかと、
そう、錯覚さえ感じるが、周りの人達の反応を誇らしげな姿に

「おめでとうございます!」

自分も嬉しくなり、祝いの言葉を向ければ

「風祭に比べれば大した事無いさ」

微笑み、テレながら作られた言葉に
そんな事無いです!
大きな声で言いかけるも、

「3軍のくせにサボってんじゃねぇよ!」

後ろから聞こえてきた言葉に、振り返れば
見知った人物が立っており、先程の嬉しさから瞬時に
敵意を視線に含ませた。

傲慢で嫌味を踏んだ先程の言葉が
更に印象の悪化へと導き、
今にも動き出してしまいそうになる手を、
必死に握り拳を作り耐え、次の言葉を待つ。

外さない様に集中し、目に力を入れるが、
言葉は聞こえず、違う音が耳に入ってきた。

「そろそろ、始めたいんだが・・・」

苦笑混じりの音に目に入れていた人物から離し、
意識を広げれば、困った表情をした渋沢に驚き、
慌て回りを見渡せば、監督を始めコーチ陣に選手も揃っており、

「スミマセン!」

慌て頭を下げるが、

「いや、まだ時間じゃないから」

大丈夫だ。

苦笑から笑みに変え作られた言葉にも表情を変えず、
視線を動かし、監督である西園寺を見れば、
微笑んだ表情を浮かべていた。

「ごめんなさい・・」

見えた表情から、自分勝手な感情を表に現し
迷惑をかけてしまった事への小さな謝りの言葉を作りだした。

下を向いてしまった視線に軽く叩かれ、
顔を上げたと同時に再開のホイッスルが鳴り響いた。

武蔵森対東京選抜

練習試合が始まれば、
ただ見学者となりボールの動きを見つめるだけとなった。

いつもと違うのは、藤代・間宮・渋沢が東京選抜ではなく
武蔵森に居ると言う事。

動きを止めないボール目で追い掛け続けるが、
外で仕事をしている3軍のメンバーが気になり、
試合から意識を外し動きばかりを目で追ってしまう。

試合を見る事さえ許されない現実に苛立ちを感じるが
ホイッスルの音に気分を切られ、
ベンチへと戻ってくる選手にドリンクを渡し、席を譲る。

西園寺の声

選手同士の話し合う声

様々な声が耳に入っては抜けていく。

目に入るのは、真剣な表情で話し合う将の姿

自分の知らない所で許せない事になっていたなんて・・・

黒いモノがジワジワと広がって行く中、
後半の始まりを告げる笛の音が響く。

その後の記憶がなかった。

「今日はどうしたのかしら?」

目の前に立っている西園寺の言葉に、ただ

「スミマセンでした」

謝りの言葉に頭を下げる事しか出来なかった。

「心、ココに有らず。
 そんな感じだったわね」

返事をする事も、頷く事も出来ず、
ただ立っているしかできないに、

ちゃん?」

動く事もなく下を見ているを不信に思ったのか、
名を呼び、優しく柔らかな声がかけられる。

「何かあったの?」

心配そうな声に、顔を上げ重くなってしまった唇を動かし、
小さな声で言葉を作り上げれば、

「そう・・・」

変わる事の無い、柔らく優しい声と頷きに、

「スミマセン・・・」

再び、誤りの言葉を音に出してしまった。

重く落ちてくる空気を払う様に、

「そんなに思い詰めなくてもいいのよ」

頭を撫ぜられ、変わらぬ音に小さく頷き
監督室から外へと出た。

怒る事も、呆れる事もしなかった西園寺の優しさに
涙ぐみながら、蛍光灯に照らされた廊下を歩き
将の姿を探し続ける。

目に入っていない不安が近づいてくるのを感じ、
逃げるように早足から、走りへと変え、
足音が響く事をすらかまわず走り回った。

すれ違う人から名を呼ばれ、
止まる様に言われるが、聞こえないフリをし、
将だけを探し、囲まれる様に歩いている中に見慣れた背中を見つけ、
声を上げかけるが、ノドの奥へと無理やり押し込んだ。

ボールを持ちながら、
嬉しそうに笑いながら、
仲間と歩いてく。

邪魔をする事は、自分自身が1番許せない。

今、呼び止める事でゼッタイ将はコトワリを入れてしまう・・・・・

笑顔が見れなくなってしまう・・・

そんなコトが1番イヤで1番ダイキライ

だから・・・でも・・・・・・

見る事は・・
見守る事は許されるハズ・・・

ジャマはしないから・・・

だから・・

見付からない様に、
そっと後を付いてゆく。

邪魔にならない様、見付からない様、
室内の少し離れた所から見つめる。

楽しそうに笑いながらサッカーを楽しむ
姿を見ていると、

ちゃん?」

名前を呼ばれ、ゆっくりと首を動かし、声の主を見つめ

「渋沢キャプテン・・・」

名を音に出せば、心配そうな表情へと変わり
会話が始まった。

ハズ・・だ・・・・

なにを話したのか、まったく覚えが無く
気が付けば緑色の公衆電話から走りだし、
将の背中に抱きついていた。

ちゃん?」

戸惑いと気遣いの混じった声で名を呼ばれ、
抱きしめていた手に力を込め、

「一緒に寝よ」

縋る様に願いを口にしていた。